町長までも行方不明となるなど、津波で壊滅的な被害を受けた岩手県大槌町。数十人が身を寄せる県立大槌高校体育館には16日朝、大声が響き渡った。
「孫さ、いねえか!」。
一瞬の間があった後、いくつも並んだ毛布の列の中から高々と手が振られた。
大槌町小槌の阿部英男さん(76)と妻の光(みつ)さん(75)の目には涙が浮かんだ。毛布には、孫の黒沢大輔さん(25)がくるまって笑顔を見せた。
阿部さん夫妻の自宅は山側にあり、津波被害は免れたが、釜石市の長男や、町内の孫が気になり、すぐ車に飛び乗った。
釜石市も壊滅的な被害だった。「もしかしたら」との不安がよぎったが、自らを奮い立たせ避難所をすべて回った。一度訪れた避難所も何度も訪れ、14日になってようやく長男の消息を確認した。
「次は孫」。すぐに大槌町に住む孫の黒沢さんを捜しはじめた。長男のときと同様、繰り返し同じ避難所にも足を運んだ。
大槌高校に避難しているという情報を得たのは15日夜。2人は疲労のピークに達していたが、避難所に駆けつけ、気付くと腹の底から声を出していた。「黒沢大輔さ、いねえか!」。
光さんは「無事に生きていてくれて良かった」と涙を浮かべて黒沢さんらと抱き合った。
そのとき、2人の乗用車のガソリンは底をつきかけていた。「今回見つけられなかったらと思うと」と安堵の表情を浮かべた。
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